ネルウィンの民たちが暮らす谷の周辺には、フリーン川が純粋な水路として谷間に沿うように流れている。その川辺に倒れた柳の木にちなんで名づけられたウィロー・アフグッドは、素朴な農家に生まれた赤ん坊だった。だが、この子は幼少の頃から強いフォースの潜在能力を示しており、偉大な魔術師ハイ・アルドウィンからも、ウィローは特別な子供であると宣言されたのだった。しかし、ウィローの父、スクノアーはアルドウィンの預言を無視し、自分の息子は有能な農場主であり、簡素な生活を送るのだと主張したのである。
まだ子供だった頃、ネルウィンの祭りに参加していたウィローは、旅芸人による色鮮やかなマジックや劇作術を目の当たりにした。それにすっかり魅了されたウィローは、その日以来、手品のトリックや巧みな手さばきについての研究に没頭するようになり、老スクノアーを驚愕させたのだった。
やがてスクノアーが他界すると、ウィローはアフグッド・リーチの農場整備の仕事を受け継ぐことになる。最初の数年は非常に忙しく、若き妻カーヤの存在なくしては、彼は決して成功しなかっただろう。いつの日からか、ウィローは農民として、そして2人の幼い子供ラノンとミムスを育てる父親としての生活にすっかり順応していた。しかし、彼はマジックに関する興味を完全に失ったわけではなく、ハイ・アルドウィンに弟子入りをしつこくせがんでいたのである。アルドウィンは新しい見習いを取ることに消極的だったが、ウィローは祭りで目撃した作劇法を身に付けることで、自分の技能を研ぎ澄ませていたのだった。
手品は単純な表現技法に過ぎないが、ウィローの空想の焦点はまさにそこを向いていた。彼はいつの日か偉大な魔術師になるのだという大望を密かに抱き続けていたのである。だが、これらの夢も気難し屋の村長、バーグルカットには何の関係もないことだった。バーグルカットは税金を払わせるために彼を農場でこき使い、それでも足りない分は鉱山送りにしてでも払わせると脅していたのである。
ネルウィンの村の第1342回目の春祭りのとき、ウィローは年老いた魔術師ハイ・アルドウィンが最終的に次の弟子として選ぶべき見習い候補の有望株の1人だった。賢者は新参者たちに、世界を支配する力を持つのはどの指かと尋ねる。ウィローは直感を一切無視し、アルドウィンの広げた指の中から1本を選んだ。だが、正解は選ぶ者自身の指だったのだ。
ウィローの家庭に予言の子が現れ、彼の人生が永遠に代わるきっかけとなったのも、同じ年のことだった。彼の子供たちが善意でフリーン川から救助したダイキニの赤ん坊は、バヴモーダ女王率いる邪悪な軍勢によって狙われていたのである。街がデス・ドッグの襲撃を受けたとき、ウィローはその子供を十字路へと連れて行き、ダイキニの人間に託す必要があることを知るのだった。
この旅は長い道のりだったが、ウィローは幼い子供を追う闇の軍勢を回避することができた。そして十字路に到着したとき、彼は捕らわれの剣士、マッドマーティガンにその子を託す。ウィローはマッドマーティガンに疑いを抱きながら赤ん坊と別れるが、実際にその子が悪戯好きなブローニーたちによって連れ去られたのは、その直後のことだった。小人たちはウィローを森の精霊、シャーリンドレイのもとへと導き、ウィローは彼女からこの子供の重要性について説明を受けることになる。
この子供、エローラ・ダナンは、ティル・アスリーンの未来の女帝となるべき存在であり、闇の軍勢によって全世界を支配する邪悪なバヴモーダ女王を倒す宿命を担っているのだという。シャーリンドレイはウィローに、エローラをフィン・ラゼールのもとへ届けるよう命じた。彼女曰く、ラゼールはバヴモーダの魔力によって孤島に捕らわれている魔女であり、その後、彼女がウィローをティル・アスリーンの伝説の地へと導くことになるという。そこにはバヴモーダの大群を撃退するための大規模な軍隊も待機しているのだ。
ウィローはその直後にマッドマーティガンと再会し、彼に冒険の手助けをしてもらうことになる。やがて、彼らはダークサイドの魔術によって動物の姿に変えられたフィン・ラゼールを発見するが、このときのウィローの力では、彼女を人間の姿に戻すことはできなかった。そして、彼らはついにティル・アスリーンに到着するが、古城には呪いがかけられており、バヴモーダの軍を撃退するはずの軍隊も待ってはいなかった。彼女の闇の兵士たちはティル・アスリーンを侵略し、赤ん坊を連れ去っていく。バヴモーダ女王は永続的な支配を実現するために、エローラを生贄とするつもりだったのだ。
邪悪なケイル将軍の軍勢によって殺戮されたギャラドーンの生存者たちが、ウィローの仲間に加わった。彼らは邪悪と戦うため、ノックマーにあるバヴモーダの居城へと向かう。戦いが荒れ狂うなか、ウィローと人間の姿に戻ったフィン・ラゼールはバヴモーダの砦へと侵入した。ラゼールとバヴモーダは強力なフォースを激突させ、その間にウィローは生贄となっていたエローラを救助することに成功する。このとき彼は単純な手品のトリックを使い、エローラを安全な場所へ瞬間移動させたかのように見えた。激怒したバヴモーダは、苛立ちからフォースの嵐の制御を失い、暗黒の力によって消滅したのである。
バヴモーダの死によって、彼女がアンドウィーンにかけていた闇のとばりも消滅した。ラゼールはティル・アスリーンの呪いを解き放ち、いつしかこの地はエローラ・ダナンによって統治されることになる。また、ウィローはフィン・ラゼールの記した魔術の本を持ってネルウィンの村へと戻り、そこで平和的なフォース能力の訓練を続けるのだった。
そして1年後、ウィローは奇妙な夢を経験する。彼は巨大なドゥイヌオグウィン・スター・ドラゴン、カラン・ディナーの背中に乗り、アンドウィーンの見たこともない地へと連れて行かれたのだ。ディナーはティル・アスリーンでウィローを降ろし、そこで彼はマッドマーティガンやエローラ・ダナンと再会することになる。これは、ウィローとこのスター・ドラゴンが共有する夢のような冒険の第1章だったが、彼にとって、これはあまりに鮮明な夢だったのだ。
こうした不思議な旅のなかで、彼は灼熱の砂漠に覆われた見知らぬ世界を訪れたことがある。この世界には奇抜な姿をした、驚くべき種族が数多く暮らしていた。ウィローはそこでウィーゼルと名乗り、奇妙な宇宙港都市につかの間の滞在をする。ウィローはマジックを使ってシンプルなカード・ゲームでオッズを予想し、この異国の惑星でのんびりと暮らすのに十分な金を手に入れたのだった。彼の連勝に次ぐ連勝は、やがて地元でジャンク屋を営むワトーの関心を引くことになる。彼はウィーゼルと親しくなり、彼をブーンタ・イヴ・クラシックを観戦するための専用ボックス席に招待してくれた。ワトーは、ウィーゼルが自分にも幸運を招いてくれることを期待していたのである。しかし、ワトーはこのレースですべてを失ったのだった。
砂漠の惑星に滞在した期間は何ヶ月にも感じられた。やがて、ウィローはネルウィンの村の青々とした草原の中で目を覚ます。彼は日焼けした肌と乾ききった喉以外に何も持っていなかったが、それこそが異世界へ旅立ったという証拠なのだ。これらの謎は未解決のままだったが、巨大な天変地異が国土を揺るがしたとき、すべては忘れられてしまった。アンドウィーン全域に広がる力の地(この世界で最もフォースの強い場所)が、突如として恐ろしい噴火を巻き上げ、後には荒石しか残されていなかったのだ。ティル・アスリーンも完全に崩壊してしまったのである。
すべてを失ったウィローは、過去も同様に捨て去り、ソーン・ドラムヘラーと名乗るようになった。彼はその後12年間、アンドウィーンをさまよいながら、天変地異の背後にある答えを捜し求めていた。別世界への旅に責任の一端があったのか、あるいは自分は魔術師や、エローラ・ダナンの守護者として不適格だったのか、彼は絶えず自問し続けていた。やがて、彼は惑星の裏側、アングウィンの土地で答えを探し始める。そこはエローラが聖なる王女として統治している国だった。
エローラ・ダナンの腕にあるあざは、彼女が予言の子、すなわち太陽と月の娘であり、すべての王国を支配すべき未来の女帝であるという証拠である。事実、ティル・アスリーン、ギャラドーン、ノックマー、キャッシュメアのすべての王国にその伝説と神託、そして予言が存在していた。その伝説によると、やがて強大な力を持った子供が出現し、それらの王国を統治することになるというのだ。
この予言の存在を知ったバヴモーダ女王は、領土内のすべての妊婦の逮捕を命じた。捕らえられた妊婦たちはノックマーの地下牢に閉じ込められ、そこで助産婦たちによる世話を受けさせられたのである。
エローラ・ダナンの母は歴史の中に失われた。拘束中にエローラを出産した運命の女性は、エトナと呼ばれる慈悲深い助産婦に助けられる。エトナは生まれたばかりのエローラを抱いて、バヴモーダの衛兵やデス・ドッグを避けながら、逃走したのだった。だが、この裏切りが発覚すると、バヴモーダは母親の殺害を命令し、エトナを追跡したのである。
飢えたデス・ドッグは何週間もの追跡の末、ついにエトナを追い詰める。しかし、彼女は間に合わせのいかだにエローラを乗せ、赤ん坊をフリーン川へと逃すことに成功したのだった。
エローラは奇跡的にこの川下りの旅を生き延び、アフグッド・リーチの岸まで無事にたどり着いた。彼女はそこでウィロー・アフグッドとその家族に拾われる。小柄なネルウィンたちはこのダイキニの子供の世話をしていたが、デス・ドッグがネルウィンの祭りを襲撃したとき、ウィローはこの子を村の長老たちの前へ連れて行くべきだと悟ったのだった。
高位魔術師アルドウィンはエローラの中に大きな力が眠っていることを認識したが、彼にはフォースを通じて彼女の心の声を聞くだけの力を持っていなかった。アルドウィンはウィローに、この子供を谷の果てにあるダイキニの十字路まで連れて行くよう命じる。そこで新たな守護者が彼女を世話してくれるというのだ。このときウィローには知る由もなかったが、エローラは彼を守護者として選んでいたのである。
当初、ウィローははぐれ剣士のマッドマーティガンに赤ん坊を託そうと考えた。しかし、マッドマーティガンはあっという間に子供を盗人のブローニーたちに奪われてしまう。ブローニーたちはウィローをエローラと再会させ、彼らを精霊シャーリンドレイのもとへと連れて行った。そこで彼女はウィローに予言の内容を説明する。シャーリンドレイは彼に、エローラをティル・アスリーンヘ連れて行き、魔女フィン・ラゼールの協力を得るよう命じたのである。
ウィローはようやくティル・アスリーンに到着するが、王国はバヴモーダに呪いをかけられており、エローラも彼女の兵士たちによってさらわれてしまう。幼女はバヴモーダの砦へと連れて行かれ、闇の女王はそこでエローラの精神を忘却の彼方へと追放するための一連の呪文を唱え始めた。ウィローとフィン・ラゼールはその儀式を妨害し、さらにウィローはバヴモーダを騙し、エローラをこの邪悪な女王が決して到達し得ない次元へ逃したと思い込ませたのだった。
女王はウィローの手品に激怒し、召喚していたフォースの嵐から気を逸らしてしまう。そして、バヴモーダは自分自身でも制御できないほどの巨大な力によって飲み込まれたのだった。彼女の闇の支配は終焉し、エローラはウィローと再会したのである。
ティル・アスリーンを覆っていた呪いも消え、エローラは活気を取り戻した壮大な都市の指導者たちによって保護された。その後も、ウィローは彼女に会うことはできなかったが、彼女の守護者であるという誓いは継続したままだった。そして1年以上が経過したとき、ティル・アスリーンは凄まじい爆発に見舞われる。これはアンドウィーン全域にあるフォースの強い場所を破壊した天変地異の一部だった。ウィローはその後10年以上にわたって、この破滅の背後にある手がかりを求めてアンドウィーンをさまようことになる。
そして天変地異から12年後、彼は惑星の裏側にあるアングウィンで、エローラが生きていることを知った。彼女は聖なる王女として崇められており、気性の激しい甘やかされた10代の少女へと成長していたのである。ソーン・ドラムヘラーと名乗って旅を続けていたウィローは、若きエローラをダークサイドが覆っている証拠を発見し、苦悩するのだった。
マッドマーティガンとして知られる悪党の周囲には多くの奇妙な逸話が存在するが、たいていの場合、真実と作り話を区別することは難しい。ギャラドーン出身のマッドマーティガンは名家の息子であり、いつか王国の治世に携わる職に就くことを期待され、非の打ち所のない教育を施されていた。しかし、そのようなつまらない仕事をするには、彼はあまりにも落ち着きが足りなく、無謀な性格だったのである。
不登校児だったマッドマーティガンは、レッスンを抜け出してはギャラドーンの多種多様な商店街を訪れ、嘘のつき方や剣の扱い方など、より実践的な技術を身に付けていった。そして10歳のとき、彼は血に飢えたポアスを数え切れないほど(倒した数について2人の主張が微妙に異なっているが)切り裂くことによって、友人をこの刺青のある獣から救うことになる。やがて、マッドマーティガンの荒削りな才能は著名な剣士ロニーロの関心を引き寄せ、彼の弟子となったのだった。
彼が騎士の称号を得た時期についてはよく分かっていないが、最も一般的な(そしておそらくは間違った)説によると、彼が騎士になったのは12歳のときだという。これはこの地位に到達した最年少記録であり、次に若い騎士が当時17歳だったエアク・トービアーである。マッドマーティガンはエアクの友人となったが、彼は仲間の騎士たちと共に過ごそうとはせず、キャラバン隊の騎手や、より多彩で柔軟な人生を歩んできた人々と親しくなったのだった。
向こう見ずな性格にも関わらず、マッドマーティガンは騎士としての誓いを真剣に受け止めていた。だが、これは結果的に彼の転落をより痛ましいものとすることになる。なぜなら、彼は若き王女に恋心を抱き、騎士の規範を破るか、自分の心を裏切るかという厳しい選択を迫られたのである。
マッドマーティガンの選択は不十分なものだった。王女の愛はつかの間に終わり、彼は愛する者に裏切られたのだ。そして、彼は騎士の規範を破ったことも公表してしまう。マッドマーティガンはすべての名誉を失い、屈強の剣士としての技術は残されたが、甲冑と騎士としての資質を奪われたのだった。
かつての騎士は酒場や他のあまり評判の良くない場所で多くの時間を費やすようになり、道楽と悪徳の中で過去を忘れ、酔いつぶれていた。邪悪なバヴモーダ女王が領土の拡張を開始し、反対勢力を次々となぎ倒していったのもこの時期である。ギャラドーンの騎士たちは彼女を退けるために軍隊を準備していたが、マッドマーティガンはその中に含まれていなかった。
その後、彼の人生がダイキニの十字路に吊るされた鳥かごの中に落ち着いたとしても、それはまったく驚くに値しないことだった。やがて、彼はウィロー・アフグッドによって解放されることになる。ウィローは赤ん坊のエローラ・ダナンの世話をしてくれる、責任あるダイキニを探していたのだ。マッドマーティガンは彼女を引き取ることに同意し、多くの知り合いの女性の1人のもとへと連れて行く。しかし、彼には運がなかった。マッドマーティガンの行き先はあまりにも遠く、到着前に赤ん坊が盗賊のブローニーたちによって誘拐されてしまったのである。
ウィローはエローラを取り戻し、路傍の酒場で不道徳を働いていたマッドマーティガンを発見する。浮気した少女は大急ぎではぐれ剣士を「ヒルダ」に女装させ、説得力のない偽装工作で野蛮な夫ラグを何とか誤魔化そうと試みた。だが、ラグが妻の浮気に気づき、ノックマーの軍がエローラを探しに現れると、突如として酒場は大混乱に包まれる。マッドマーティガンとウィローは、エローラを連れて何とかその場を逃れることに成功したのだった。
ノックマー軍に追いつかれる前に、マッドマーティガンはウィローを無事に目的地であるフィン・ラゼールの島へと送り届けることができた。しかし、マッドマーティガンとウィローは、バヴモーダ女王の美しい娘、ソーシャの捕虜となってしまう。その後、彼らは後を追ってきた2人のブローニーによってノックマーのキャンプから解放されるが、その過程でマッドマーティガンはブローニーの惚れ薬を吸い込んでしまい、ソーシャに心を惹かれてしまうのだった。
過去の苦い記憶をすべて忘れ、マッドマーティガンはソーシャに対する不滅の愛を告白する。突然の大胆な言葉に混乱したソーシャは、彼とウィローに逃げる時間を与えたのだった。やがて、ウィロー、マッドマーティガン、2人のブローニー、そして魔女のフィン・ラゼールは、バヴモーダの軍を打ち破るための軍隊が待機しているという伝説の地、ティル・アスリーンへとたどり着く。しかし、そこには呪われて水晶に閉じ込められた兵士たちと、トロルの徘徊する古城が残されているだけだった。
マッドマーティガンはティル・アスリーンの兵器庫から装備品を略奪すると、騎士の姿に身を整え、ティル・アスリーンと友人たちを独力で守ろうとする。一方で、ソーシャは彼の無欲の勇気に心を打たれ、自分が彼の愛に報いようとしていることに気づくのだった。彼は母への忠誠を捨て、マッドマーティガンの側で戦い始めたのである。しかし、ソーシャが裏切り、ギャラドーンの生き残りの戦士たちが援軍として現れたにも関わらず、ノックマー軍の兵士たちはエローラ・ダナンを誘拐することに成功したのだった。
ウィロー・アフグッドはノックマーへの反撃を決意する。彼とソーシャ、フィン・ラゼールがバヴモーダの塔に侵入する間、マッドマーティガンとエアク・トービアーはギャラドーン軍を指揮し、ノックマーを攻撃した。軍の大半を塹壕に隠すという巧妙な作戦が功を奏し、ギャラドーン軍はノックマーの城壁を通過することに成功する。そして、彼らはエアクを失ったが、マッドマーティガンは彼の剣を取り、ノックマーの司令官、ケイル将軍を倒したのである。
その後、ウィローとラゼールもついにバヴモーダを滅ぼし、彼女の闇の支配は終わりを告げることになる。ラゼールはティル・アスリーンの呪いを解除し、マッドマーティガンは蘇った王国の守護者として、再び騎士のマントを手に入れることができたのである。しかし、この平和は1年も続かなかった。大規模な天変地異が巻き起こり、この世界の地表からティル・アスリーンが消滅してしまったのだ。この王国で暮らしていた人々も、一人残らず消えてしまったのである。
ソーシャはバヴモーダ女王が闇の力を台頭させたとき、この邪悪な魔女とティル・アスリーンの王子、ミカル・タンサロスとの間に生まれた少女である。だが、バヴモーダはティル・アスリーンに呪いを掛け、市民を水晶の中に封じ込めることで、ソーシャの記憶から父親の存在を永久に消し去ったのだった。彼女が持つ過去との接点はその赤い髪だけである。バヴモーダは魔力によって娘の炎のような髪の色を変えようと最善の努力を費やしたが、彼女の髪は常に輝いたままだった。
バヴモーダは娘が自分の後を継ぎ、偉大な魔女になることを望んでいたが、フォースはソーシャに味方しなかった。彼女は最も初歩の魔法テストにも合格できず、その代わりに剣術の才能を開花させたのである。王女としてのソーシャは孤独な子供時代を過ごしており、それもバヴモーダに怯える部下たちが、彼女と親密になることを恐れていたからに他ならない。やがて、大人の女性へと成長したソーシャは、周囲の土地を探求するため長い旅に出るようになり、ノックマーの城を離れることが多くなったのだった。
彼女はノックマー軍と共に剣術と弓術の訓練を積んだが、それはバヴモーダにとっては無念なことだった。しかし、女王もついには娘が魔法より剣術に長けているという現実を受け入れ、ソーシャを残忍なケイル将軍に次ぐ、軍の副官の地位に就かせたのである。
ソーシャは、エローラ・ダナンを連れてバヴモーダの手から逃れた助産婦を見つけ出す任務を与えられた。この赤ん坊こそは、闇の女王の支配を滅ぼすとされる予言の子だったのだ。助産婦はデス・ドックに追い詰められ、殺害されたが、エローラはウィロー・アフグッドというネルウィンの村人に助けられていた。彼ははぐれ剣士マッドマーティガンと共に、エローラを魔女フィン・ラゼールのもとへ連れて行くことになる。
赤ん坊の居場所に関する手がかりを探して路傍の宿屋に押し入ったソーシャは、ウィローとエローラを発見し、さらにマッドマーティガンと顔を合わせた。この剣士は無謀で無節操な男だったが、彼女にはこのハンサムな男への強い関心を否定することはできなかった。
やがて、自軍と共に赤ん坊を捕らえたソーシャは、マッドマーティガンと再会する。このとき、彼は妖精の惚れ薬にかかっており、彼女に不滅の献身と愛を告白したのだった。この言葉はソーシャにとって聞き慣れないものであり、彼女に混乱をもたらすことになる。その後、激戦の中でマッドマーティガンの大胆不敵な英雄的行為を目の当たりにしたソーシャは、ついに自分が彼を愛していることに気づくのだった。彼女はノックマーを裏切り、ギャラドーンの戦士たちと共に戦ったのである。
バヴモーダ女王の支配は、その後の最終決戦で終わりを告げた。闇の女王は自らの野心に打ちのめされ、自身の闇の魔力に飲み込まれたのである。ソーシャはティル・アスリーンへと戻り、フィン・ラゼールが王国の呪いを解除した。都市の住人たちは水晶から解放され、彼女の父も蘇ったのだった。
だが、再会の喜びはつかの間だった。1年を少し過ぎた頃、大規模な天変地異が発生し、この世界の地表からティル・アスリーンを消滅させたのだ。王国の人々も皆、消えてしまったのである。
エンドアのウィスティやダントゥイーンのファイヤー=フォークのように、多くの科学者が分類さえも拒む類稀なる生命体、ブローニーは、身長約20センチほどの小さなヒューマノイドである。他の多くの小型生命体とは異なり、彼らは極めて長寿であり、何世紀にわたって生き長らえることができる。また、彼らは体が小さいだけでなく、その個体数も極めて少ない。事実、これまでに女性の個体が記録に登場したことは一度もなく、性の役割や繁殖の方法を含む多くの事柄が謎のままなのだ。
ブローニーたちはアンドウィーンの最も深い森の中に小さな共同社会を築いて生活しているが、彼らは自分たちの社会を王国であると誇張している。事実、すべてのブローニーはこの惑星における自分たちの立場に、極めて思い上がった見解を抱いているのだ。ウィロー・アフグッドがエローラ・ダナンをティル・アスリーンへ送り届けようとしていたとき、この旅に同行したフランジーンと名乗るブローニーは、自分を世界の王であるとさえ宣言したのだった。
ブローニーは魔法の生物のように思えるかもしれないが、彼らにはフォースとの親和性がほとんどない。その一方で、彼らは超常現象を尊重し、彼らと森林を共有する非現実的な種族(妖精たち)を崇めている。それは彼らが真に尊重する唯一の存在であり、彼らは森の精シャーリンドレイの前にひれ伏し、ときとして彼女の命に従うのだ。
ブローニーはとても悪戯好きな種族である。この性質は、一千年にもおよぶ寿命からくる退屈さに起因するものなのだ。そのため、アンドウィーンの他の種族たちは彼らを厄介な害虫、最悪の場合は害獣であると考えるようになったのだった。しかし、このような決め付けは、この身体的欠点を克服した機知に富む種族に対して失礼だろう。ルールとフランジーンの例を見て分かるように、彼らは概して非常に忠実な種族なのだ。この2人のブローニーは、ウィローと共に天変地異の謎を解き明かすべく、10年にもおよぶ冒険に出発したのである。
バヴモーダ女王が台頭するまで、アンドウィーン最大の王国だったティル・アスリーンは、豊か農地と穏やかな気候、そして啓発的な政府によって繁栄していた。1,000世代におよぶ賢明なティル・アスリーンの王たちは、市民を縛り付ける法ではなく、フォースの中へ意思を注ぎ込むことによって、国土全体に平和と秩序を維持し、人々と国土に繁栄への希望を植えつけたのだった。神聖なるティル・アスリーンの偉大な善意の前には、論争も消滅し、敵さえもひるんだのである。
しかし、このような超自然への信頼は、欺きに長けたバヴモーダにティル・アスリーンの弱点をさらけ出すことになる。彼女こそは善意を知らぬ闇の魂だったのだ。
ティル・アスリーンでは、アンドウィーンで最も優秀な魔術師たちが数多く学んでいた。そこには魔法の呪文を保管した巨大な図書館があったのだ。また、森の精霊シャーリンドレイは、彼女のために成長した郊外の小さな森の中で、新しい弟子を選んでいた。そして、彼女が最後に訓練した2人の弟子が、フィン・ラゼールとバヴモーダである。やがて10年後、2人はティル・アスリーンの運命を決定することになるのだった。
力の頂点に立ったバヴモーダは、ついにその闇の力を解き放つ。彼女はティル・アスリーンに呪いを掛け、すべての人々を水晶の中に閉じ込めた。そして、彼女は渓谷の迷宮と、宮殿に隣接する土地に走る亀裂を巧みに利用し、近づく者すべてを挫折させる攻略不可能な大迷宮を作り上げたのである。こうして、ティル・アスリーンは誰も発見することのできない伝説の王国となった。やがて1世代が過ぎると、人々はもはやその存在さえも疑うようになったのだった。
そして数年後、ティル・アスリーンはフィン・ラゼールとウィロー・アフグッドによって発見される。彼らはこの失われた都市に、バヴモーダの軍を打ち破る力を持った軍隊が待っていると聞かされていたが、実際に彼らを待っていたのは凍りついた市民たちと、トロルの徘徊する古城だけだった。
しかし、最終的にバヴモーダ女王は敗れ、ティル・アスリーンを覆っていた呪いも解除されることになる。人々も果てしない束縛から解放されたのだった。だが、この平和は長く続かなかった。1年余りが経過したとき、アンドウィーンに大規模な天変地異が発生したのである。この災害によってティル・アスリーンは地表から消滅し、そこで暮らしていた人々も消えてしまったのだった。